介護の目的とは、日常生活に支障をきたしている利用者が、できるだけスムーズに毎日を過ごせるようにすることです。そのためには、利用者が置かれている生活環境や心情を十分に把握して、介護職が自分自身のことのように感じながら、同じ人間として相互に支え合う姿勢が必要になります。そこで介護職が仕事を続ける上で必ず求められるのが、利用者に対する共感的理解です。
この点、心理学者であるA.H.マズローの「欲求の5段階説」によれば、人間には5段階の欲求があり、人間の成長のためにはそれぞれの欲求の充足こそが重要であると説いています。そしてこれらの欲求を満たす前提として、他者からの共感的理解が欠かせないのです。ちなみに5段階の欲求とは、生理的欲求、安全と安定の欲求、集団所属の欲求、他者による尊敬、自己実現の欲求を指します。この中でも特に、安全と安定の欲求、集団所属の欲求、他者による尊敬(自尊心)については、介護職の共感的理解が強く求められます。
例えば安全と安定の欲求については、「体調はどうですか?」「何かすることはありませんか?」など、介護職が身体や精神の状態について相手に尋ねるだけでも、利用者の欲求を満たすことが可能です。また介護をするにあたっては、利用者の自尊心を傷つけるようなことがあってはなりません。初めて対面したにもかかわらず、気安く「おじいちゃん」「〇〇さん」などと呼べば、利用者の気分を害してしまい、欲求が不満へと変わってしまいます。介護職であれば共感的理解の観点から、まずは相手にどのような呼び方を望むのか、よく尋ねるのが基本です。